再会した幼なじみは黒王子? ~夢見がち女子は振り回されています!~
帰る準備を終え、残っている人たちに挨拶をしてオフィスを出る。
廊下は人気がなく、小さなため息すら響きそうなくらい静かだ。
エレベーターホールにたどり着いたときには、すでに航くんの姿はなかった。
エレベーターを呼び、乗り込んだ。
今日は慌ただしい1日だった。
落ち込むようなことがあったにも関わらず、航くんの姿を見ることができただけで清算されてしまった気がする。
彼がいるだけですごく心強かったし、助けてくれたことも嬉しかった。
小さな幸せを感じながら、エレベーターを降りる。
エントランスに足を踏み出すと人影が見え、思わず肩を震わせた。
航くんだ。
「……瀬戸、さん?」
「遅い。準備するのが遅いのも昔から変わらないよな。そのせいで何度遅刻しそうになったことか」
「え?」
「今日これからの予定は?」
「や、別に何もないですけど……」
「ふーん。じゃあ、行くぞ」
航くんの手が私の腕を強く掴み、駐車場の方へ歩き出す。
「えっ、ちょっと待って……待ってくださいってば、瀬戸さん!」
「ぎゃんぎゃん騒ぐな。うるさい」
「だって……!」
再会したときと同じ状況に、もしかして送ってくれるつもりだろうかと頭をよぎったとき、航くんの声が耳に入ってきた。
「疲れを癒してくれるんだろ?」
「はい?」
「腹へったな。とりあえず、何か食べよう」
「えっ、ちょっと……」
戸惑いながらも、ここ1ヶ月はなかった航くんの強引さが以前のように戻ったことが懐かしくて、私は引かれるまま彼の後を追った。