再会した幼なじみは黒王子? ~夢見がち女子は振り回されています!~
緊張で震えそうになるのを落ち着かせ、気合いを入れてチャペルに入ろうとしたとき、航くんに「ちょっと待て」と腕を軽く引かれた。
「紗菜」
「えっ?」
耳元で航くんに名前を呼ばれ、咄嗟に彼のことを見上げる。
今は仕事中だしこんなふうに呼ばれるとは想像もしていなかった。
「変な気合いは入れなくていいからな。力抜いて、何にもとらわれずに“紗菜”らしく空間を感じてこい。いいな」
私の肩に航くんの手が乗り、力を抜けというように軽く叩く。
彼の行動は不思議と私を落ち着かせ、緊張感や身体に入っていた力もほどよく抜けていく。
単純だけど「紗菜らしく」という言葉が今回ばかりは自信に繋がるように感じた。
私にもできることがある。
少し落ち着きを取り戻し「はい」と頷くと、彼は「行ってこい」と言うように私の背中を軽く押した。
彼の存在を心強く思いながら、私はチャペルの中に足を踏み入れた。
チャペルに入るとすでに、多くの会場スタッフが着席していた。
その光景はさっき感じたものとは違い、より華やかに感じる。
人がいない空間の雰囲気も素敵だったけれど、列席者が入ることでより空間に厚みが出ている。
きっと新郎新婦が入るとまた大きく雰囲気が変わり、その時々でオンリーワンの空間となるのだろう。
邪魔にならないように一番後ろの端の席に行こうとしたとき、入り口のすぐそばに立っていたスタッフに真ん中辺りの列に着席するよう促された。
そこは見る角度を変えればチャペルの雰囲気を感じやすく、何よりもバージンロードのそばなのでとても見やすい特等席だ。
こんな素敵な席に私がいてもいいのか疑問に思ったものの、遠慮すると逆に邪魔になるような気がして、ここは甘えることにした。