溺甘副社長にひとり占めされてます。
1章、我が社の副社長は…


「館下(たてした)君」


名前を呼ばれ、パソコンの画面から視線を移動させると、すぐに総務部の畑(はたけ)課長と目が合った。


「この資料をコピー。30部。急ぎ」

「……はい」


言われ、私は仕事の手を止める。

課長の横柄な言い方に対し、誰にも気付かれぬようこっそりため息をついたのち、ゆっくりと椅子から立ちあがった。



ここは都内の一等地に建つ、とあるオフィスビル。

その14、15、16階に、ハイクラスと呼び名の高いロイヤルムーンホテルが本社を構えている。

私はその管理部総務課に在籍している社員である。

総務課にはデスクが5つ並んでいるのだけれど、パソコンに向かって一心不乱に仕事をしているのは、私を含め3人だけ。

一時間くらい前に課長に仕事を言いつけられてから空いたままの後輩の席が1つ。

そしてパソコンよりも自分の毛先を見つめている時間の方が長い、何ともやる気の感じられない後輩がもうひとり。


「各部署の部長に早めに配っておきたいから、急ぎで」

「わかりました」


今朝、今日中に終わらせろと言われた仕事がいくつかある。

まだ残っている。

それなのに、どうして暇そうにしている後輩、村野(むらの)さんではなく、私に仕事を言いつけて来るのか。

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