溺甘副社長にひとり占めされてます。

心の中でぼやきつつも、課長がさも当然だとばかりに突きだしてきたファイルを受け取った。

……何も言わずに受け取ったのに、あろうことか、課長は私の顔を見て嫌そうに顔をしかめてきた。

そのことに目を大きくした私から、課長は早々と顔をそらし、今度は眩いものでも見るかのように目を細める。

仕事もせずに自分の髪の毛ばかり気にしている村野さんを、愛おしそうにじっと見つめている。

込み上げてきた苛立ちを振り払うべく、私もすぐさま部長に背を向けた。そして足早に歩き出す。

村野さんの後ろを通りすぎようとした時、ほんの一瞬、彼女と目が合った。

大きな瞳を二度ほど瞬きさせたのち、私の手にしていたファイルへと視線を落とす。

しかし何を言うわけでもなく、そのまま自分のパソコン画面へと顔を向けてしまった。

キーボードの上に置かれた、彼女の女子力の高い手に目が留まる。

ピンクを基調とし、キラキラと飾り立てられたネイルがとっても可愛らしかった。

小さく息を吐くと、仕事の手を止め私を見ていた同僚二人と目が合った。

憐みの顔を向けてくる同僚たちへと苦笑いを返したのち、私は戸口の脇に設置されたコピー機へと歩を進めた。

コピー機と対面すればすぐに、エラーランプがついていることに気が付いた。


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