溺甘副社長にひとり占めされてます。
「あぁ、これだこれだ。あとは……」
引き出しの中から大判の茶封筒を引っ張り出し、続けてパソコンを操作し始めた。
「そうだ。館下さん」
村野さんは椅子に座ると頬杖をつき、可愛らしい顔を私に向けた。
「キスするなら、もう少し場所を選んだ方が良いですよ。副社長も、なにもあんな道端で堂々としなくても」
「キスなんてしてない!」
「私、この目で見ましたから」
「本当にしてないの!」
たまらず反論してしまったけれど、すぐに失敗したと後悔する。
同僚たちも課長も宍戸さんも、表情をなくしている。
気まずさでいっぱいになり、私は課長に笑いかけた。
「あの。すみません。何でもないですから。仕事の話の続きをお願いします」
「いやっ……あの……ちょっと待ってくれ」
途端、課長がうろたえ始めた。キーボードを叩く手が、微かに震えている。
「午前に契約書の作成をいくつか、そのあとは子会社6社の決算書の整理を頼もうかと思っていたんだが……」
「はい。分かりました」
「いや。契約書の方は……宍戸君に頼もうか」
突然の指名変更に、宍戸さんから不満げな声が上がった。