溺甘副社長にひとり占めされてます。
恐怖すら感じる宣言にふたりが息を飲めば、背後でごほんと咳払いが響いた。
「副社長、目立ってます。館下さんを今すぐ解放するか、それが嫌ならどこか別の場所に移動してください」
呆れ顔で白濱副社長に物申す遥子さんの姿を見て、女性ふたりはそれぞれに気まずそうな顔をする。
「そうだね……それじゃあ行こうか、美麗ちゃん」
言うなり、肩を抱き寄せられた。女性ふたりをその場に残し、彼にエレベーターへと連行されそうになる。私は焦って声を上げた。
「えっ!? ちょっと待ってください。私、今日は帰らせてもらいます!」
「そんな寂しいこと言わないでよ。俺さ、美麗ちゃんが帰るまでに社に戻りたくて、頑張ったんだよ」
「でも私、今日は用事が……」
なんとかして、自分の肩から白濱副社長の手を払い除けようとするけれど、上手くいかない。
立ち止まることすら許されぬまま、とうとうエレベーターの前まで戻って来てしまった。
きゅっと、私の肩を掴む手に力が込められた。
「ねぇ、美麗ちゃん。用事、本当にあるのかな?」
耳元で問いかけられ、ドキリとする。原因は距離の近さだけじゃない。疑いの声は私の嘘を見抜いているかのようだった。