嘘をつく唇に優しいキスを~諦めた恋が動き出すとき~
不器用な優しさ
「あー、これは虫歯だね」

歯科医師のその一言に、思わず大きなため息が漏れる。
ただでさえ、昨日から気分はどん底だったのに、こんな追い打ちが待っているとは思わなかった。
一体、どれだけついていないんだろう。

昨日は本当に散々だった。
タクシーを降り、ぼんやりしたままアパートの階段を上がっていたとき、足を滑らせて脛を強打した。

『――っ!』

あまりの痛さに息が詰まり、その場にしゃがみ込んだ。
じんじんと脛が痛み、目には涙が滲む。
本当になにをやっているんだろう。
帰宅間際にこんな目に遭うなんて、踏んだり蹴ったりとはまさにこのことだ。

なんとか部屋にたどり着き、気持ちを切り替えようとシャワーを浴びる。
髪を洗っていたら、ふと明日の午後に歯の定期検診の予約をしていたことを思い出した。

そして翌日。
気分が晴れないまま、いとこが働いている『牧村ファミリー歯科』へ向かった。
定期検診だけで終わると思っていたのに、まさかの虫歯。
今日はとことんついてない。
歯の治療のとき、口を開けっ放しにしないといけないのが地味に辛い。
ウィーンという耳を塞ぎたくなるような機械音を想像しただけで、気持ちまで削られていく。

次から次へと不運が重なり、ため息しか出ない。

治療が終わり、ハンカチで口元を拭きながら待合室へ向かう。
また通わないといけないのかと思うだけで、気が重い。

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