嘘をつく唇に優しいキスを~諦めた恋が動き出すとき~
土曜の午後、ショッピングモールに来ていた。

イベントや町田さんの告白など、いろんなことが重なって、気持ちが落ち着かない一週間だった。
特になにかを買うつもりじゃなかったけど、ショッピングモールを歩くだけでも気分転換になると思った。

買い物を終えて駅へ向かって歩いていると、数メートル先のコンビニの前に、俯いて立っている人の姿が目に入った。
――新庄くんだ。

プルオーバーのパーカーに黒のスキニーパンツという、ラフな服装だった。
こんなところで会うなんて思わなかった。
どうしよう。
わざわざ声をかける必要はないし、このまま見なかった振りをして、通り過ぎよう。
そう思って視線をそらし、再び歩き出したとき。

「あれ、桜井じゃん。偶然だな。買い物でも行ってたのか?」

運悪く、ちょうど顔をあげた新庄くんに気付かれてしまった。
さすがに無視するわけにもいかず、足を止める。

「あ、うん。新庄くんはなにしてるの?」

「俺は――」

「湊くん、お待たせ。欲しかったデザート、売り切れてた」

言葉を遮るように、コンビニからひとりの女性が出てきた。
小柄で華奢な体つき、茶髪のふんわりとしたボブに、パッチリとした二重の大きな目。
女の私から見ても思わず目を惹かれるような可愛らしい女性は、当たり前のように新庄くんの隣に立った。

あ、この人……。
前に、二人で歩いているところを見たことがある。
間違いなく新庄くんの彼女だ。

< 84 / 103 >

この作品をシェア

pagetop