嘘をつく唇に優しいキスを~諦めた恋が動き出すとき~
「しかも、その頃は付き合っていた彼女と上手くいってなかった。前から少しずつすれ違いが増えていて、些細なことで喧嘩することも多くなってたんだ」

そう言って少し俯いた。

「入社したばかりで、自分のことに精一杯だったから、彼女のことまで気を回す余裕がなくてさ。そんな状態に、向こうも我慢できなかったんだろう。ある日、彼女から別れを切り出されたんだ」

新庄くんは苦笑いする。

「最低だけど、俺は彼女と別れてホッとしたんだ。これで仕事に集中できるって」

知らなかった彼の過去を聞き、複雑な気持ちになる。

「正直さ、その頃の俺にとって、桜井のことはなんでも話せる、ただの同期としか思ってなかった」

「えっ……」

不意に私の名前が出てきて、動揺した。
新庄くんから改めて"ただの同期”とハッキリ言われると辛いものがある。
まぁ、私だって最初はそう思ってたんだけど。

「彼女と別れて二週間ぐらい経った頃かな。いつものように残業していたら、桜井がなにも言わずにおにぎりや飲み物、チョコとかお菓子の入った袋を机の上に置いていってくれたんだ」

新庄くんは少しだけ表情を緩める。

「それで、袋の中に【腹が減っては仕事はできぬ。体が資本なんだから何事もほどほどに!】ってメッセージが入ってた」

「あっ……」

思わず声が漏れた。
そういえば、そんなこともあったなと思い出す。

あの頃の新庄くんは、毎日のように残業していた。
目の下には隈ができていて、疲れ切った顔を見るたびに気になっていたんだ。

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