嘘をつく唇に優しいキスを~諦めた恋が動き出すとき~
「桜井のおかげだよ」
新庄くんが柔らかく目を細めた。
私が差し入れをした翌日、いつも疲れ切っていた新庄くんが、まるで憑き物が落ちたような晴れやかな表情で『ありがとう』と照れくさそうに笑っていた。
その顔を見て、私がしたことは無駄じゃなかったんだと思えた。
でも、私のおかげだなんて言われるほど、大したことはしていない。
同期として、当たり前のことをしただけだ。
「私はなにもしてないよ。おにぎりだって、新庄くんはあまり食事をとってなさそうだったから、お節介かなって思ったけど、勝手に差し入れしただけだし」
新庄くんは首を横に振った。
「いや、間違いなく桜井のおかげだよ。実際、あの差し入れをもらってから俺は変われた」
真っ直ぐな視線が私をとらえる。
「何気ない優しさに、何度も助けられてきた。くだらない愚痴を言い合ったり、お互いに励まし合ったりしてさ。気づけば、俺は桜井のことを目で追うようになっていたんだ」
その言葉に大きく胸が跳ねた。
なにそれ。
そんなこと言われたら勘違いしてしまう。
きっと、深い意味なんてない。
そう自分に言い聞かせようとしたとき、新庄くんは視線をそらすことなく、ゆっくりと言葉を紡いだ。