3,5次元パラレルワールド(仮)
理由

「、、それで?いつまでくっついてくるの?」

「お嬢さんが大丈夫になるまでですよ。」

そういいながら一定の距離を保って後ろをついてくる碧唯。
もうあの大きな木の下からは大分歩いた。

目覚めてからいろんなことが一気に空っぽの脳みそに流れ込んできて正直全く収集できてない。
むしろ7割はこぼしてる完璧に。

「どこまで歩くのですか、お嬢さん。
ここがどこなのかもわからないのに、、」

「だから、パラレルワールド?でしょ?
わかってるって。もういいよ、ほら大丈夫。」

「いいえ、大丈夫ではありません。」

「だーかーらー、大丈夫だって!よっぽど知らない男の人につけられてるこの状況こそ大丈夫じゃないんですけど。」

「ん?僕は知ってるよ、歌恋のこと。ほら、知っていたでしょ?」

「私は知らないんです!」

少しペースを上げる私。が、それに
ぴったりと一定の距離を保ったままついてくる碧唯。
なんだこれ。本当になんだこれ。

「もう少ししたらこの丘のふもとに出ます。
そこがお嬢さんに床に就いてもらう場所です。」

振り返るとそこには満面の笑み。
こいつ、後ろをついてきながら誘導してたな。

正直恐怖とか不安とかは感じていないんだけど
自分の中に何もない空虚感だけが、目覚めてからずっとずっと私を支配している。

鬱陶しいけど、碧唯がそこにいてくれる
ことで私に与えてくれる安心感は感じていた。

「さぁ、着きましたよ。それでは中へどうぞ!」

色々と思考を巡らせているうちに丘のふもとへ降りていた。
碧唯が自信満々に示すその先の小さい山小屋はとてもじゃないけど眠れるような場所には見えない。というか、、

「オンボロ。」

「え?」

「いや、、オンボロ。こんなの廃墟じゃない。」

木でできたその山小屋(物置?)は今にも崩れそうだった。

「さぁさぁ、いいからっ。ほら、歌恋、開けてみな。」

キャラぶれしまくりな碧唯の言葉に押されてドアに手をかける。
きしみ音を立てながらドアがゆっくりと開いていく。

中から光と暖かい空気が漏れ出す。そこに広がっていた景色を見て私は唖然とした。

「あれ?お気に召しませんでしたか、、」

「、、、しい、、」

「え?」

「懐かしい、、すごく、、暖かくて、心地いい。」

「そう、、それは非常によかった。」

そこに広がっていたのは外観からは全く想像なんかできやしない、きれいに飾られたクリスマスツリー、大きなフカフカな絨毯。
大きなソファーに木製のテーブル、暖かい暖炉に火の灯ったキャンドル。

ん?

「ねぇ、なんでクリスマスツリーなの?」

さっきまで外は温かい初夏の風が吹き、色とりどりのお花と緑が永遠と広がる大地。
けど心なしかこの小屋についたときは寒かった気がする、指先もほんのり赤い。

「よくぞお気づきで。ここは3,5次元パラレルワールド。ここの世界の主人公はお嬢さんです。ここはお嬢さんの無くした記憶の断片が散りばめられた世界なのです。つまり四季という概念ではなく思い出、記憶、場面がそこら中に散らばっています。その中のワンシーンを歩いてきたわけです。」

おわかりで?と後ろで首をかしげる碧唯をよそに全くついて行けていない私。

「つまりここは歌恋、君の中とも言える。
歌恋は歌恋の意識の中にある、現実世界と並行しているこのパラレルワールドにいるんだよ。」

「ちょっと待った。わかった。もうここが現実じゃないことも自分の失った記憶の断片の中ということも。けど、そうだとしたら、ほかにも人がいていいはずだよね?碧唯も居るんだし。」

そう、ここ。これ重要。
一番の疑問はこれだ。この山小屋の中もそうだが、玄関の靴の数、食器の数、作られたばかりの暖かいディナー。
たどり着く道中ですら、人の面影はあるのに誰もいない。
なのにたった一人だけ。私以外に、ずっと私の意識の中を自由に行動している人が
いる。

「どうして碧唯だけここにいるの?」


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