あのとき離した手を、また繋いで。
この約束は夏希に言ったかどうか覚えていないんだけど、約束は最後まで守るね。
「本当に、ありがとう」
泣かないで、笑うから。
だからほら、夏希も泣かないで笑って見せてよ。
涙を流し続ける夏希の目もとに手を伸ばしてそのしずくたちを拭う。
そしたらその手を夏希が掴むものだから驚いた。そしてそのまま抱き寄せられて、身体を包み込まれる。
「ごめん、モナ……」
「……っ……」
……ああ、ダメだな、私。
"嫌だ"って、そう言われることを望んでいる。
"離れたくない"って、"好きだ"って、私自身が心の奥底で叫んでいる言葉たちを、夏希に言ってほしいと願っている。
夏希の背中に手を添えて、体操着を掴んだ。
それが精一杯の告白だった。
「幸せにしてやれなくてごめん。泣かせてばっかりですまなかった」
終わる。終わりに近づいている。
こんなにもお互い力強く抱きしめ合っているのに、けして口にはしない本音。
たぶんわかっている。お互い。気持ちは同じなこと。
だけど言ってしまえば、終われなくなる。
それじゃダメだ。きっと私たちは、こうなる運命だった。
夏希の本心はわからないけど、たぶん同じだよね。
私たちが選んだ道はきっと険しい道のりだろう。
夏希は、特に。余命宣告をされた幼なじみのとなりに寄り添うのだから。
そっと離れて夏希の顔を見ると、手をぎゅっと握ってくれた。私も夏希の手を握り返し、瞳を閉じた。
この手を離したら、私たちは、終わる。