愛し紅蓮の瞳
誰ひとり知っている人がいないこの世界で、私のことを心から心配してくれている楓さんの存在は
何よりも大きくて、心強くて、温かくて……。


私はこの先、楓さんにどう恩返しをしていこう。
もし、光蓮様が許してくれるのなら、東雲家に仕え、一生懸命働くことを誓おう。



いつか私の住む世界に戻って、お父さんやお母さん、知紘に会えると信じて。
今は……今を受け止めて、楓さんに恩返しするためにも一生懸命頑張るって私、たった今決めた。




「この子は、蘭は何一つ知らないのです。聖様のことはもちろん、東雲家や東里家が何なのか、ここが東州の深森であることすら……しかし、南梨の間者ではないと、南梨のことは知らぬと嘘のない澄んだ目でハッキリと口にしました。私はそれを、信じております」


「……なるほど。それは不思議な話だ。この辺りで東雲家をを知らない者はいないとばかり思っていたが……蘭殿は、まるで異界から来たかのようだな」




───ドクン



異界……。
試すように口にした光蓮様の言葉に、心臓が激しく加速して、さっきまでとは違う、光蓮様の瞳の色に強く戸惑う。少なからず、私を疑っているその瞳にこの場から今すぐ逃げ出したくなった。
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