愛し紅蓮の瞳
……このままじゃ双葉さんが危ない!

私の世界なら、きっとこんな熱くらいどうってことないのに。

やっぱりこの世界は、私の世界よりも発展が遅れているような気がする。



普段から医者が近くにいない状態で生活しているなんて、何かあってからじゃ手遅れだ。


「……歩いて二時間なら、走ったらもっと早く着くよね!」

「ら、蘭さん!まさか……」

「私がお医者様を呼びに行く!こう見えて運動神経だけは良いから。私が今から走って呼びに行ってくる!」

「それはいけません!これから夕刻になって、月明かりだけが頼りになります!この辺は夜になると狼が」

「俺が行く」

「……ぐ、紅蓮」


必死な姫蓮ちゃんの言葉に"大丈夫だ"と告げるべく開いた口は、私の言葉を待たずして発された紅蓮の言葉に負けて声ならぬまま。

いつから居たのか、入口の壁にもたれながら、片足に重心をかけるように立ち尽くす紅蓮と目が合った。


「若様……!いつ見回りからお戻りに?」

「虎太と共に、西から一足先に屋敷に戻ったばかりだ。父上たちは時雨殿を率いて北へ向かった。恐らくもうしばらくは戻らないだろう。

……俺がこれから再び西へ向かい、医者を呼んで来る。蘭は屋敷で待て」

「……分かった」


一緒に行くと言いかけて、グッと言葉を飲み込む。私が行ったって邪魔になるだけだと思ったから。
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