王族の婚姻をなんだと思っていますか!
「ああ。馬鹿力の姫ですか? いいじゃないですか、言いたい輩には言わせておきなさい。まぁ、私は馬鹿力でも気にならないですけれど」

しれっとした顔で言う彼を、私はまじまじと見つめた。

「力はないよりはあった方がありがたいです。平和な世の中ではありますが、王族に荒事がないわけでもありませんし。少なくとも、ノーラは私より馬鹿力には見えません」

「え……あの?」

真顔で言ってくるウォル殿下に、逆にこちらが戸惑ってしまうんだけど?

「騎士団長の令嬢が、ただ花よ蝶よと育てられたとは思えません。体術のひとつやふたつは習っているでしょう。従僕もつけず、吹雪の夜に飛び出す向こう見ずではありますが」

確かに向こう見ずと言われれば、向こう見ずかもしれない。

普通の貴族令嬢は、街に行くにも馬車を使うだろうし、供をつけない、なんてことはしない。

まして、夜の街に単独で出ようとは思わないんだろう。

「もう、あのようなことはやめてください。倒れて落ちていくあなたの姿は見たくない」

「はあ。その節は、お手を煩わせてしまいまして……」

あくまで真剣な彼に、なんだか困ってしまった。

一応、心配してくれてるのかな。

「私の手を煩わせてくださる分にはいかようにもできます。ただ、病や体調などは私の手に余る。ああいうのは一度でたくさんです」

「命大事に、ですか?」

「当たり前です。命は大切です。というわけで、これは受け取ってください」

スッと右手を持たれたかと思った瞬間、白い封筒を乗せられた。

それはどういうわけですかー!
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