王族の婚姻をなんだと思っていますか!
「あ、あの、ですからっ!」

「それにノーラが隣にいるからといって、今さらどうこうなる評判でもありません。私は珍しく“婚約者もいない”王族ですからね。男色だの不能だのと、ずっと囁かれていますよ」

男色だの、不能だの……。

殿下をまじまじと見つめながら考えて、意味がわかると、途端に顔が熱くなった。

何言ってるんだこの人~!

「殿下。一応、娘も年頃なんですから。あまり明け透けに言うのはどうかと……」

父上が困ったように呟くけど、ウォル殿下はどこ吹く風の澄まし顔だ。

「あれこそ、根も葉もない噂でしょう。私は男性より女性が好きですし、不能でもありませんよ。まだ、ノーラに証明するわけにはいきませんが」

「当たり前です! あなたは父親である私の前でなんてことを言ってるんですか!」

「昔、兄とよく話をしていたじゃありませんか。あの女官の胸が大きいとか」

「若かりし頃の与太話は忘れてくだされんでしょうかっ! それは嫁を貰う前の、男同士内での話ですから!」

慌てて騒ぎ立てる父上の様子に、冷静さが戻ってくる。

ああ、うん。なんていうか……ひとつだけわかったことがあるな。

ウォル殿下って、かなりの変わり者だ。

まぁね、王族って言っても人は人だもん。いろんな人がいるわけだよね。

白い封筒を膝の上に置き、バスケットの中のサンドイッチに手を伸ばす。

それを咀嚼しながら、言い争うふたりを眺めた。









< 34 / 85 >

この作品をシェア

pagetop