私の恋した誘拐犯【完】
「ちーちゃんのお父さんと勉強のことでよく話すようになって、いろいろ雑談もしてさ」



暗く、ぼやぼやした記憶の中にお兄さんとお父さん。



私は遥かに高いお兄さんをただただ見上げていた気がする。



「ちーちゃんはまだ小学1年生だったかな。…小さくて素直で、満面の笑みでパタパタ走るんだよ。…俺の前では」



“俺の前では”



そう言った洋くんの表情に影が降りる。



「…知ってたんだ。…ちーちゃんがお父さんの前で、いつも無理してたこと」



下を向いた洋くんの目に前髪が壁を作った。



自嘲気味な笑い声が微かに聞こえ、嫌な予感が胸をさす。
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