あなただけの騎士

「はぁっ?!騎士?!まさかっ、あの…!」


顔を真っ青にし、今にも崩れ落ちそうな程に足が笑っている男の方を見る。


「あなたの言っているあの、かはわかりませんが一応私の通り名は騎士と呼ばれています。命がおしいなら今すぐ彼女を連れてきなさい」


すると男は足が取れるんじゃないかってくらいのスピードで走っていった。
…足速いな


まだ手を出されてはいないだろう。
アイツらが丁度来る頃に手を出そうとしてたはずだからな…


それにしても、総長は出てこないのか?

…あぁ、そうか。俺にびびって出てこれねえのか。


そんなことを考えていたら、さっきの男が走っていった方から言い争うような声が聞こえてきた。


──バンッ!!


「誰だァ?自分は騎士だとか語って他の族の姫を連れていこうとするのわァ!」


…お前が総長サマか。


「他の族、ですか。彼女はただの一般人。手を出すことはあまり勧めませんね…。出すぎた真似をするのならば、騎士団が動きますよ?」


少しだけ殺気をつけ、睨んだだけで体全身が震えてる。

よく総長なんてできてるよな…。


…そろそろ、か。


獣が唸るような、地鳴りのような低い音が聞こえてきた。


おせぇっつの。

「てってれーん!!呼ばれてないけどじゃじゃじゃじゃーん!!天下の琥珀様ですっ!」


毎回毎回苛立つ登場の仕方するよな。
遅いし。


「遅いですよ、琥珀。もし姫に何かあったらどうなっていたことか」

「キングが急にいなくなるから気付かなかったんだよ!!」

琥珀…いや、正春はこんな性格をしているが周りをよく見ている。もしかしたら俺よりも周りを見て、その場の空気を読み、判断し行動する力があるかもしれない。


俺なんて治安維持のためにグループ引き継いだから騒がれてるだけで喧嘩が強いわけでもなんでもない。


それにしても、正春が遅れるなんて珍しい。


「さて、琥珀。姫を救出に行きますよ」


「あぁ。俺らの姫に手を出したこと、後悔させてやる。



かかってこいよ、雑魚どもが」


正春の言葉にキレたのか、大勢で正春に殴りにかかる。

その間に俺は桃華を助けねえと…!



絡まれると面倒なため、気配を消して階段を上っていく。


本気で消してるわけじゃねえけど。
こいつら、よく族できてるな。


──カチャ


「きゃっ!だ、だれ…?」


目隠しをされ、手を縛られている桃華。


…これはこれでありだな

ハッ

そんなことを考える時間じゃないだろ、俺。


「姫、私は姫の敵ではありません。今すぐにその縄を解いて差し上げます。ですが…一つだけお約束を」


「約束…?」


コテン、と無意識で首を傾げる桃華。
思わず口角が上がりそうになる。



「ええ、簡単なことです。ただ、誰に聞かれても何も無かった、と。名前も顔もわからない男に助けてもらった、とだけ伝えていただければ」


「それだけでいいんですか…?」


心底不思議そうに、どこにいるかわからない俺に話しかけている。


桃華は族の汚い世界のことをあまり知らないはず。だが、今頃下で伸びているであろうクズ共の会話を聞き、これから何をされるか悟っていたのだろう。

ビクビク怯え、壁の隅の方に寄っている。


…あぁ、いじめたい


「姫、少々目を瞑っていてもらえますか?」



はい、という返事を聞き、腕の縄を解いて目隠しも外す。

そのまま横抱きにし、外へ連れ出し、学校へ戻るはずが…


「ひゃっ!え、ちょ、これって…!」


…横抱きは少しご不満な様だ。


「姫、静かに。敵に気付かれてしまいますよ」

なんてあることないことを言って桃華を黙らせる。


***



…さて、桃華は学校へ戻したが…


彗郎の処分は、どうするか。


どちらにせよ、こいつらに明るい未来は待っていない
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