その男、カドクラ ケンイチ












ガタガタ ゴトン



自動販売機でコーヒーとミルクティーを買ったカドクラはベンチに腰掛ける。


「はい。」


ミルクティーを隣に座るノノムラに渡した。


「…」


携帯をいじっていたノノムラは黙って受け取る。




「この前ここでナガノ先生に会ったんだけど、まさかノノムラにも会うとは。驚いたよ。」


カドクラはコーヒーを一口飲む。



「今日はどうしたんだ?」


「…」


「2Fから降りてきたってことは産婦人科に行ってたの?」





「…全然こないから…
妊娠したかもしれないって思って。
検査してもらいました。」


ノノムラはようやく口を開いた。



「どうだった?」


「赤ちゃんはできてないって。」


カドクラは激しく安心する。

「そっか。」


「…」


「俺は生徒の恋愛まで口出すつもりはないけど、おま・・」


「じゃあいいじゃないですか。」


「期待して検査に来たんじゃないんだろ?
不安に思ったから来たんだろ!?

・・お前の顔に書いてあるよ。」



「…」


「相手は黒酢の生徒か?」


「…それは絶対にちがいます。」


「違う彼氏?」


「……分かんない。」


「分かんないって?」


「ちがう。
相手が誰か分からないって意味じゃなくて。

その人が私にとってなんなのか分かんない。」


「好きなの?」


「…うん。」


「じゃあ立派な恋人だよ。」


「…」


「でも不安になるようだったら、ちゃんと守ることは守らなきゃ。」


「…」


カドクラは立ち上がる。


「まっ、行こうか。送ってくよ。」



「先生…」


「大丈夫。今日会ったことは誰にも言わないよ。」



ノノムラもゆっくり立ち上がる。



「ノノムラ。お前が俺のことどう思おうと勝手だけど、お前は俺の大事な生徒だからな。」



「…」



2人は病院をあとにした。







第17章 完
< 114 / 181 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop