その男、カドクラ ケンイチ









「まさに奇跡だよ、コウタ君。」


「……」


「君が落ちた場所に、たまたま芝生が敷かれていたからね、
その僅かな偶然が起こした奇跡が君の命を取り留めた。」


「……」


「気分はどう?」


「…大丈夫です。」


「何かあったらすぐ呼んでください。」





主治医が病室を出る。




「…」



タカハシ コウタは窓から見える景色を見る。


もう見ることができないと思っていた太陽が眩しい。


もう聞くことができないと思っていた蝉の声がうるさい。














コンコン


少し大きめのノックがする。


「はい。」



「タカハシ!!!」



「カドクラ先生…」




「タカハシ。よく頑張った…」


カドクラはタカハシを抱きしめた。




「先生…」




カドクラは大粒の涙を拭う。



「大したもんだよお前は。生きてて良かった。」




「死のうと思った。

でも屋上から落ちて全身に激痛が走って、意識が遠のく中、思った。

死にたくないって。

ごめん先生。馬鹿なことした。」






タカハシはベッドのそばに置いていた携帯電話を取った。



「ホントに…さ…俺馬鹿だったよ…」


タカハシは携帯を開いてカドクラに渡した。



「俺には……こんなにも……友達がいたんだよ先生…」


タカハシの目からも涙が溢れる。



カドクラは携帯を受け取り見る。




メールの受信ボックス

写っていたのは37件のメール。


オオシマ、ダテ、アカイ、ノノムラ・・・・・・



2年6組の生徒全員からのメッセージ。


全てタカハシへのエールだった。



昨日、オオシマが6組全員に提案し、助かってほしい願いを込めて一斉に送信されたのである。



「あいつら・・。」


カドクラもまた涙が止まらない。






「先生、俺やり直せるかな…」


「大丈夫に決まってる。俺がついてる!」






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