サイレント・タロット
振り返ると、つい先日自分との相性を占った、あの男が、ニヤニヤとした顔で立っていた。

「偶然だね」

「ええ、そうですね……この辺に住んでたの?」

「大学時代、ここにはよく弾きにきたから。今でもたまに来るんだよ。今日は持ってきてないけど」

少し残念だった。ずっと彼のチェロをまた聴きたいと思っていた。

「よくここでフルート吹いてるよね」

「知ってたの!?」

顔がかっと熱くなる。

「そりゃあね、知ってるよ」

これまでにも何度か、上手いとは言えないフルートを聴かれていたのだろうか。それを想像するだけで胸が痛む。

「あぁ……恥ずかしい。下手だから……きかれてたなんて……」

そう言って顔を覆うと、彼は真面目な顔で語り始めた。

「いや、クロサキはいい音持ってるよ。技術の高さとかじゃない。管楽器って息が命だろ? そこに人柄があらわれるんだよ。俺、君の音すごい好きだったよ。落ち着いてて、それでいて遠くまでポーンと届いていく、みたいな」
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