溺甘スイートルーム~ホテル御曹司の独占愛~
『そんなことをしていただかなくても結構——』

「早く鍵を開けてください」


私は彼の言葉を遮った。
遠慮されるのはわかっていた。
けれども、看病する人がいないなら、ろくに食べていないに違いない。


『ですから、大丈夫……』

「風邪が長引けば、社長のお仕事にも影響が出ます。そんなこと、中野さんなら百も承知ですよね」


大成さんと彼の会話を聞いていたら、こうして煽るのが一番だと思った。
ふたりとも意地っ張りなのだ。


『わかりました。今開けます』


作戦成功。すぐに開いたドアを潜り抜け、八階までエレベーターで上がる。
角の八〇一号室まで行くと、狙ったようなタイミングでドアが開いた。

さすがは秘書と言いたくなる。
どのくらいで私がここまで上がってくるのか、計算済みのような気がした。


「マスクを買ってきましたから」


彼がなにかを言う前に私のほうからそう口にする。
いろんな気を使いすぎて、疲れそうだと思ったからだ。
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