溺甘スイートルーム~ホテル御曹司の独占愛~
彼は淡々と口にする。

怒りは伝わってくるが冷静に言葉を紡ぎ、すこぶる堂々としている。
アルカンシエルの跡取りとしての風格を十分に感じた。

大成さんの言葉を聞いた千代子さんは、顔を真っ赤にして震えだし、背を向け出ていってしまった。


「澪、行こう」


大成さんは少し困った顔をして私の手を引き、会場を出た。


「私……バカですね」

「どうして?」


思わず漏らした言葉に、彼が首を傾げている。


「ピアノを手放したことを、どこかで両親のせいにして恨んでいました。でも、本当は私を守ってくれていたのに……」


父の死を初めて知らされ、涙があふれてきそうだ。
もしかしたら、その借金の巻き添えにしたくなくて離婚したのかもしれない。

そうやって私を守ってくれた父や母を恨んでいたなんて、私はどれだけバカだったんだろう。

それに、もっと弾きたいという強い想いがあれば、どこかでピアノを借りて練習するということだってできたはずだ。
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