約束の大空 3 ※ 約束の大空1&2の続編。第四幕~(本編全話 完結)



「運命かどうかなんて、わしらにもわかりません。

 ただ花桜が今、あの時代で精一杯生き続けてる。
 それだけが確かな現実なのじゃ。

 さて、ばーさんや。
 花桜と敬里を頼んだよ。
 あぁー、舞ちゃんもだったな」



そう言って、お祖父さんはその場から立ち上がると、
何時ものように総司が入院し続ける病院へと私を連れて行った。


通いなれた病室に顔を出すと、今日も総司はベッドに横たわったまま窓から外を見つめていた。


「敬里、どうじゃ。
 少しは落ち着いてきたか……」


目の前にいるのは総司であって、孫の敬里ではないと知りながらも
何事もないように、花桜のお祖父ちゃんは総司のことを敬里と呼んで気にかけている。


再会したばかりの頃は眠ってばかり居た総司が、
今は時折、ベッドの上で目を開けている。


「うむ。顔色も少しずつ良くなってきたな。
 入院したばかりの頃は、どうなるかと心配したが安心したわい」

「山波さん……」


総司は花桜のお祖父さんのことを名字で呼びかけると、
お祖父さんは「祖父ちゃんでいい」っと、ベッドサイドの椅子に腰かけて柔らかに微笑んだ。


「総司、ホント、顔色が良くなって安心した」

「瑠花の住む時代は、労咳にも治療薬が存在するんですね。
 四種類もの薬を毎日決められた時間に、きっちりとお医者さんの前で飲まないと行けなくて、
 逃げることも出来ませんし、薬を飲んだ後に暫く体調を崩すこともありますが、
 半年以上、この治療を続けると完治するのだとか……」

「あぁ、必ず治る。
 薬を飲み始めた初日から、眩暈に吐き気に高熱と続いて大変じゃっただろう。
 耳鳴りに、大量の汗に悩まされた時もあった。

 だが少しずつ落ち着いてきたな」

「えぇ。
 今は少し皮膚にプツプツと吹き出物が出ていて、かゆいのです」


そう言って総司は服の袖をめくった。


「蕁麻疹の副作用じゃな。
 かゆいだろうが、掻きむしってはならぬぞ」


そうやって総司との絆を少しずつ、実の孫同様に深めようとしているのが伝わってくる花桜のお祖父ちゃん。


そんな二人を見つめながら私は鞄の中から、この世界のいろんなことを記したノートを手に取る。



「山波さん、少し談話室にお越しいただけますか?」


看護師さんがお祖父ちゃんを呼びに来て、
二人きりになった途端、私は手にしていたノートを総司へと手渡した。



「瑠花……」

「ほらっ、突然知らないところに来ちゃったら心配でしょ。
 多分、総司をこの世界に連れてきたのって、
 私の離れたくないって思った我儘な願いを神様が叶えてくれたのかもしれないから」


目の前で総司は、私が書き上げたノートをゆっくりと1ページずつめくっていく。


「山波敬里……。
 そうでしたか……この名前は山波花桜の従兄弟の名前なのですね。
 それでは、先ほどの山波さんが……」

「うん。
 山南さんの血を受け継ぐ今の当主。

 山波敬介さん。
 なんだか……山南さんと同じ韻を持ってて不思議な感じですね」

「えぇ、どことなく懐かしい面影を感じています。
 だからこそ……、あの御人を見ていると心がしめつけられてしまいますね」



大切なその人を自らの手で介錯をすることを選んだ総司を思うと、
私自身も苦しくなる。



「花桜のお祖父さんも、お祖母さんも、今幕末で起こっていることをずっと見守ってくれていた。

 だからどんな思いで、総司が山南さんの心を受け止めたのかも知ってる。
 全てを知って受け止めてくれる。

 それは総司にもちゃんとわかって欲しい」

「瑠花……僕のかわりに、幕末にいったこの名前の本当の持ち主は無事ですか?」

「負傷した近藤さんと一緒に、大坂城へ行ったのは知ってるけど、
 それ以降のことはまだわからない」

「そうですか……。
 今、新選組はどうなっていますか?」 



そう告げる総司の唇は、強く閉ざされているのが伝わる。
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