私の上司はご近所さん

話を部長に聞かれてしまったのは不本意だけれど、私が好きな人が部長だということはひと言も口にしていない。それに私と山崎さんのやり取りを部長が言い広めることは絶対にない。そう断言できるのは、彼が信頼に値する人物だから。

責任感が強くて、相手を思いやる気持ちにあふれていて、頼りがいがあって、厳しさの裏には優さがあって……。

部長の尊敬しているところをあげれば、キリがない。

やっぱり私、部長のことが好きなんだ……。

自分の気持ちを再認識していると、今さら胸が高鳴り始めた。頭を上げた部長と視線が合うと、鼓動がさらに加速する。

このままじゃ心臓がもたない……。

取りあえず落ち着くために、胸に手をあてる。すると部長の視線が私からスッと逸れた。

「それじゃあ俺は持ち場に戻る。矢野くんとうまくいくといいな」

「……っ!?」

部長の口から飛び出した予想外の言葉に、衝撃を受けた。

もしかして部長は、私が翔ちゃんのことを好きだと勘違いしている? 私が好きなのは翔ちゃんじゃない。部長なのに……。

声にできない思いを心の中で叫んでみても、部長には届かない。

いっそのこと、部長を追い駆けて好きだって伝える? でも自覚したばかりの恋心を打ち明けても、彼女がいる部長を困らせてしまうだけだ。

私に背中を向けて歩き出した部長の後ろ姿を見つめるしかできないことが、歯痒かった。

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