私の上司はご近所さん

「部長も書庫に用ですか?」

「ん? まあ、そんなところだ。それより書類を保管するんじゃなかったのか?」

部長は台車に積んだままの書類を見逃さない。

「あ、えっと……保管は明日でもいいかな~と思いまして……」

書庫で社員がコトの真っ最中だとは、さすがに言いにくい。言葉を濁すと台車の向きを変えて、エレベーターに向かおうとした。しかし部長に台車の取手を力強く掴まれてしまう。

「今日できることを、どうしてあと伸ばしにするんだ?」

「それは……」

言葉に詰まってしまったのは、いい言い訳が浮かばなかったから。部長の目を真っ直ぐに見ることができない。

「ふたりでやれば早く終わる。さあ行こう」

部長は台車をグイグイと押しながら、書庫に向かって進んで行ってしまった。隙をつかれた私は慌てて部長の後を追う。

どうしよう……。

自分はなにも悪くない。それなのにオロオロしてしまうのは、書庫で行われているコトが気まずすぎるせいだ。

「部長っ!」

書庫に続く廊下を猛ダッシュすると、部長の腕を背後からグイッと掴む。

「どうした?」

「あの……その……」

「ん?」

部長を足止めすることには成功した。しかし事情をうまく説明できない。

< 122 / 200 >

この作品をシェア

pagetop