私の上司はご近所さん

工場はチョコレートの製造過程をガラス越しに見学できるようになっている。銀色の巨大な機械がズラリと並んでいる様子は、何度見ても圧巻だ。

「まずはあのクリーナーでカカオ豆を選別します。そしてロースターで豆を焙煎して風味と香りを引き出します。次はセパレーターでカカオ豆を砕いて皮を取り除いて……」

地元の小学校の社会科見学の対応をしている工場長の説明は、とても丁寧でわかりやすかった。

約三十分の見学を終えると、星出版の山崎さんを出迎えるために正面玄関に向かう。

「工場は楽しいな。童心に返った気分になる」

「部長もですか?」

「まあな」

部長が、はにかんだ笑みを浮かべた。

広い通路に高い天井、ほのかに漂うチョコレートの甘い香り。何度訪れても工場独特の雰囲気は楽しくて、仕事だというのにワクワクしてしまう。けれど工場を訪れるのはあくまでも業務の一環。だから浮かれてはダメだと、自分に言い聞かせていた。

でも工場が楽しいと思っていたのは、部長も同じ。歳が十三も離れている部長と同じ気持ちだった事実がうれしかった。

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