私の上司はご近所さん

これってクレーム?

しかし受話器越しのお客様の声は怒っているように聞こえないし、こちらになにを求めているかもわからない。

これは広報部の業務外だ。そう判断した私はお客様センターにかけ直してもらうために、番号を伝えようとした。そのとき、背後から肩をトントンと叩かれる。振り返ると部長が「どうした?」と声を潜めて尋ねてきた。

「お客様、申し訳ございません。少々お待ちくださいませ」

通話を保留にすると、今までの経緯を手短に説明する。

「そうか、わかった。俺が代わるから園田さんは自分の業務に戻ってくれ」

「はい。お願いします」

部長は自分のデスクに戻ると受話器を取った。一方の私は部長の指示通り、入力作業を再開させた。しかし部長とお客様の会話が気になって仕方ない。パソコンの画面を見つめながら聞き耳を立てる。

「お電話変わりました。広報部の藤岡と申します。このたびはご不快な思いをさせてしまい申し訳ありませんでした」

開口一番、こちらが悪くないのに謝る部長に驚いてしまった。もしかしたら、自分の電話応対に問題があったのかもしれない。不安が込み上げてきてくる中、引き続き耳を澄ましていると「そうですか」「ええ」「なるほど」といった部長の言葉が聞こえてきた。

いったいお客様と、どのような会話をしているのだろう……。

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