私の上司はご近所さん

デート？

澄み渡った青い空、窓から吹き込む爽やかなそよ風。ゴールデンウイーク最終日の今日は、絶好の行楽日和。それなのにハンドルを握る翔ちゃんは、さっきから不機嫌だ。

翔ちゃんに誘われた私が決めた行き先は、湘南の江ノ島にある水族館。

通常ならば一時間ほどで到着する道のりも、渋滞のせいで目的地にまだ着かない。

「翔ちゃん、アメ舐める？」

「うん」

渋滞に巻き込まれてため息を繰り返す翔ちゃんの機嫌を直すために、バッグの中からフルーツキャンディーの袋を取り出す。

これでリラックスしてくれるといいな……。

そう思いながら運転席の翔ちゃんに向き直ると、彼が大きく口を開けた。

「あーん」

大きな図体をしているくせに、子供みたいに甘えて口を開ける翔ちゃんがおもしろい。

「もう、仕方ないな」

袋からキャンディーを取り出すと、翔ちゃんの口にポイッと入れる。すると、すぐに翔ちゃんの目尻が下がった。

すっごい単純……。

キャンディーひとつで機嫌が直る翔ちゃんにあきれつつ、自分もキャンディーを味わった。すると翔ちゃんがポツリとつぶやく。

「仕事は順調か？」

言葉は短いけれど、私の様子を気にかけてくれることがうれしい。

「六月に新商品のイベントがあるの。明日からその準備に追われそう」

「そうか。帰りが遅くなるなら、俺に連絡しろよ。駅まで迎えに行ってやる」

「大丈夫だよ。駅からウチまで遠くないし」