私の上司はご近所さん
「俺には妹がいるんだ」
「えっ、そうなんですか?」
今まで部長はプライベートの話題を口にすることはなかった。それなのに自ら妹さんの話をするなんて……。
珍しい現象に驚きつつ、部長の話に耳を澄ます。
「園田さんを見ていると札幌にいる妹を思い出す」
「……そうですか」
部長は駅に向かって進めていた足を突然止めた。私もその場で立ち止まると、オフィス街の夜道に風がピュッと吹き抜ける。
もう……。
肩まで伸びている髪の毛が風になびいて鬱陶しさを感じていると、私に向かって部長の指が伸びてくるのが見えた。
「だから……あまり心配させないでくれ」
口角をわずかに上げて温かいまなざしを向けた部長が、私の頬にかかった髪の毛を人差し指でそっと払ってくれた。
プライベートな話を聞けて部長との距離が縮まったことはうれしい。でも部長は私を通して妹さんを見ているんだ。
その事実知った途端、胸がモヤモヤし始める。
「部長は妹さん思いのいいお兄さんですね」
それでも無理やり笑顔を作ると、部長を褒めた。
「そうでもないさ。さあ、行こうか」
「はい」
再び駅に向かって足を進める。
私と部長は上司と部下。あたり前のことなのに、何故か気分は晴れなかった。