アナタに逢いました
カフェ『休み』
「頼むから、それ…やめてくれない?」

「え?」

小春日和の冬の朝

お店の前をせっせと箒で掃除していたら
後ろから急に声をかけられた

「いや…そのさ、さっきから…貴女のAの音がぶら下がってて…聞くに耐えない…」

振り向くとそこには紺色のジャージのような制服のような上下を着た優しい顔立ちの男がいた

顎はツンと尖って見えるのに丸顔
クリクリとした丸い大きな黒目は
…チワワのようにも見える

身長は…

(あ、あんまり高くないのかな?)

私の身長は女子にしては高めの172センチ
その私より僅かに高いくらいかもしれない


「あー?って何よ」

「えっと…ラの音って言えばわかる?」

「あとさぁ発音が…息の抜き方が…ヤダ」

フワリとした表情に綺麗な目が優しげな男は
長めの茶色の髪を風にふわふわ揺らしている

雰囲気は優しいのに…
吐き出す言葉が結構キツくてちょっと苛立つし
呑気に立ってるその様子も苛立つ…

「あのさっ?!
鼻唄にそんなに細かく注文つけられたの初めてだわ!
私は希林 湖(きりん うみ)あんた誰?」

「おれ?…わー、んっと、恭哉…きりんちゃん?」

「きりんは苗字!」

「いいじゃん、きりんちゃん…背ぇ高いし
きりんっぽい…きりんちゃんで決まり…んふふ。」

恭哉はフワリとわたあめみたいな笑顔で私には言う

ほわほわしすぎて掴み所がなくて、余裕そうに見えて…

(…なんかムカつく!)

「はぁ?…勝手に決めないでよ!あんた近くの郵便局員だよね?その制服…」

言われ慣れすぎたあだ名に悲しくなりながら吐き捨てるように言うと


「違う、恭哉。アンタはいや」

と首を傾げる

…ぼんやりして見えてやっぱりハッキリしてる…

「ごめん、恭哉は郵便局員よね?」

「…ん?…んー、そうかな…?」

質問の答えになんだか曖昧に答えた恭哉は
鼻を擦ってぼやーとそこに立っていた

(ぼんやり立ってますけど……仕事は?)

「…で、仕事は?」

「ん?あ……するよ?今休憩中だもん
……ほら、続き歌ってよ」

(あれだけ言われて歌えるかっての)


「アンタ歌いなさいよ」

「アンタ、いや。」

「そうだった。恭哉、歌いなさいよ見本に」

すると、恭哉はフフフと薄く笑うと
「いいよ」と、息を吸い込んだ


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