アナタに逢いました
恭哉の口から音が発せられた瞬間空気が変わる…

…恭哉の声が色を付けて耳に落ちる

(なにコレ?)


柔らかい布にくるまれた時のような肌触りのよい
優しい声音がゆったりと空気に溶けていく

無駄のないビブラート、響く丸い声
狂わない音程は耳に心地良い

(なんだか…天使の歌みたい)

ぼんやり聞き惚れていると

「…拍手」

ぶっきらぼうな声がした

「え?」

「せめて拍手ちょーだいよ、タダで聴いたんだから」

「なっ…なんで強要されなきゃなんないのよっ!!」

(素晴らしいとか思ったのに!)

私が噛み付くみたいに言い返すと恭哉は唇をニィッと引き上げた

「ふんふん…やっぱ知らねーのか」

「ん?」

訳のわからない独り言を呟きながら恭哉は
フムフムと勝手に頷いて、ニカッと笑った

(な、な、なんなの?)

「なんでもなーい!またね、きりんちゃん」

恭哉は手を何故か縦にぶんぶんと振ると
軽やかに目の前から去っていった


(何だあの失礼な男は…)

それにしても綺麗な声だった


恭哉をなんとなく見送り、時間になったので
店に入って手を洗うと開店の準備をする

暫くすると店長が戻ってきた

「お早うございますテンチョー」

「おはよー!きりんちゃん!今日も頑張ろうね」

店長の柳川さんは今日も輝かしい笑顔で
私の背中を叩いていく

(はぁ…)

「ため息ですか?止めといた方がいいですよー
幸せ逃げちゃうよー!
彼氏いない歴また更新しちゃいますよー?」

入ってきたのはバイトの田中くん…可愛い顔をした男の子でお店では人気だが…結構私にはズバズバものを言う…

(まぁ、仕事出来るし良い子だけどね)

『休み』

コレが私が働くカフェの名前

何度見てもふざけてる

でも店長の柳川さんの腕は確かなようで
イタリアだかどこかで修行してバリスタの資格もあるんだそうで
カフェといいながらバルの雰囲気はその時の名残か…

(まるで興味がなくてさっぱりわからないけれど…)

「ここに来ている間は『休み』でいて欲しいんだよ。あとは、知らない人は帰っちゃうでしょ?興味のある人だけくればいいかなって」

茶目っ気たっぷりに話した柳川さんが
まぁキラキラしていたこと…

柳川さんは大きな猫目に高い鼻、彫りが深くてまるで彫刻のような顔の顔のイケメン

エスプレッソ好きな常連さんに加えて
整いすぎたこの柳川さんの顔と笑顔を見に女性も訪れるので店は割りと毎日満席

忙しい店内を切り盛りするために探していたという雑用係…いやいや、店員として私は先月から友だちのツテでここに就職した

「きりんちゃん!お店オープンよろしく!」

「はい!」

店長の一声で入り口を開けると、すぐに常連さんが数人滑り込んでくる

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