PMに恋したら





古明橋に店を構える老舗のお茶屋は会社から少し歩く。まだ慣れない道に戸惑いながらも買い物を終え、ついでにコンビニでお弁当を買って食堂で早めのお昼休憩を取ることにした。早い時間のはずだけれど、食堂には既に多くの社員が集まっていた。
私は大型テレビの前のテーブルに座りお弁当の蓋を開けた。テレビには昼前の情報番組が放送され、おススメの紅葉スポットが紹介されていた。
突然私が座ったテーブルの横を男性社員が慌てて通り、二つ奥のテーブルに座る男性社員のところへ駆けた。

「今やベーの見た!」

「どうしたんだよ急に……」

駆け込んできた男性社員の様子に私を含め周囲の社員は驚いて食事をする手が止まった。

「すぐそこの交差点で通り魔が出た!」

「は?」

「俺の前を歩いてた女の子が後ろから走ってきたやつに髪の毛切られたんだよ! そんで走って前にいたオッサンの腕を切ったんだって!」

声を荒らげた社員のその話の内容に食堂が静まり返った。

「何それ、作り話?」

テーブルに座っている社員だけがのん気に話を聞いている。

「こんな話作るかよ! 警察だって来て大騒ぎだったんだって! テレビでもやってるかもしれない!」

そう言って慌てた男性社員は私の横のテレビをべたべたと触りチャンネルを替え始めた。ワイドショーが次々に切り替わり、スタジオ映像から突然画面が一人のキャスターを映し速報を伝え始めた。

「ほらこれだって!」

男性社員の言うとおり、画面には見慣れた交差点が映し出されていた。

『事件が起きた現場は古明橋駅付近の交差点で、女性が後ろから来た男に突然髪を切られ、更に近くを歩いていた男性が腕を切られましたが軽傷です。古明橋警察署によりますと男は刃物を持ったまま現在も逃走中で、警察は行方を追っています』

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