棘を包む優しい君に
「もう俺は寝る。」

 酒も飲んだ。
 何も考えず寝てしまいたい。

「大丈夫ですか?お食事は?」

「いい。寝させてくれ。」

 苛立った声を出すと何も言わずに爺は出て行った。


 情けない。
 バッタに威嚇して何やってんだ。俺。

 酒と、あとは眠るとハリネズミになる。
 それは避けようがなかった。

 子どもの頃、自分が人外だとは知らなかった。
 眠るとハリネズミになっていることも知らなかった。

 大人に近づいて、人外だと説明されても自分には関係ないことだと思っていた。

 寝ている自分がハリネズミになっていると知った時は愕然とした。

 女と一夜を過ごしたこともある。
 生涯を共に過ごせる番いだと信じて疑わなかった。

 番いとのキスや交わりで人間の姿を保てる……はずだった。
 朝には解けるはずの呪いはかかったまま。

 ハリネズミに驚いて物を投げる奴、叫ぶ奴、色々いるが、ハリネズミのままだということが答えのようなものだ。

 何度、女の記憶を消したか。

 もういいじゃないか。
 寝て起きたら人間の部分は全て抜け落ちてハリネズミに変わっていればいい。

 女を信じるくらいならそれでいい。
 もう二度と信じたくないのだから。

 目を閉じると何もかもを忘れられる気がした。




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