棘を包む優しい君に
「ジャケットありがとうございます。
 健吾さんって実は優しいですよね。」

 ふふふっと笑う朱莉に、実はとはなんだ。実はとは。と言ってやろうとしたところを遮られた。
 ドアがノックされ、爺が入って来たのだ。

「お仕事中に失礼します。
 今日は休みだからと断ったのですが、どうしても副社長と面接がしたいと来ている者がいるのですが………。」

「それは無理だろ。こいつもいるし。」

 朱莉を指し示しせば、朱莉は首を振った。

「大丈夫です。私は。
 お邪魔でしたら、ここでお待ちしていますから。」

「それが、社長から必ず2人一緒に仕事をすることと言いつけられておりまして………。」

 申し訳なさそうな爺にため息をつく。
 申し訳ないと思うなら適当に誤魔化しておいてくれればいいものを。

「すみません。ダメですか?
 お手間は取らせませんので。」

 爺の後ろから1人の奴が顔を出した。
 へつらうようにお辞儀をしたそいつは完璧な人間の姿をしていた。

 細いつり目のそいつは狐だろう。
 人間には分からなくても人外同士はどことなく分かるものだった。
 人間にはない僅かな獣のにおいがした。

「へぇ。珍しい人がいるもんだ。」

 朱莉の方を見て、いつの間にか会議室に入って来ていた狐。
 騙すのが上手く、今までの職歴をしっかり見ないと結婚詐欺みたいな悪事を働いていることも少なくなかった。

「人として礼儀正しくいられるか見るためだ。」

 人間の前で人としての姿を保てるのかと意味は伝わっただろう。
 しかしそんな適当なことを言っても相手が狐ではバレているかもしれない。

「へぇ。番いですか?
 でも変わった匂いがするなぁ。」

「おい。やめろ。番いじゃない。
 お前は面接をしに来たんじゃないのか。」

 舐め回すような狐の視線に苛立って睨みつけた。
 意に介さない様子で「へへっそうでした」と鞄から履歴書を出して渡された。




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