棘を包む優しい君に
 やはり、動物の欄には狐とあり、名前は上野雅史としてあった。
 前の職歴には結婚相談所勤務と書かれている。
 まんまじゃねーかと疑いの眼差しを向けようと顔を上げる。

 その視線と合ったのは何か良からぬことを考えていそうな怪しい目つき。

「礼儀正しい人になって何かいいことあるんですか?
 副社長さんはどうお考えですか?」

 朱莉には分からないような、それでいて挑戦的な質問を投げられる。

 人間のルールに従うことはないと思う奴らも少なからずいるのは知っていた。
 人材派遣会社として人間世界で生きていくための訓練をしている我が社をそういう奴らはよく思っていないだろう。

 そんな奴らに返事をする気にもなれずに黙っていると狐は口の端を上げていやらしい笑みを浮かべた。

「ここの次期トップがハーフじゃ頼りないなぁ。
 だってこの子の『いい匂い』も分からないでしょう?」

「もう結構だ。
 仕事を探す気がないのなら用はない。
 帰ってくれ。」

 会議室の外で待っていたのだろう。
 健吾の一言で会議室に入ってきた爺が狐の腕をつかんで連れ出した。

 出ていく狐は減らず口をたたいて捨て台詞を残した。

「人を食ったのを忘れられない奴らが一緒に暮らせるわけがねぇんだよ!」

 人を食った………。
 うるさい。うるさい。うるさい。



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