棘を包む優しい君に
 目を覚ますと薄暗いところだった。
 どのくらい経っただろう。
 体の色んなところが痛い。

 お手洗いに行って爺やさんと離れた時に声をかけられた。

「健吾さんがお呼びです。
 今朝、怪我をされて……。」

 帽子を取った下にあった猫の耳を見て、耳を傾けてしまった。
 変装だったとは気づかずに……。

 その隙に何か薬を嗅がされたみたいだ。
 記憶がない。

「目覚めましたか?お姫様。」

 現れたのは前に健吾と面接をした人だった。
 確か後から狐だと教えてもらった。

 狐……だから化けれるのかな。

「ねぇ。
 君が大好きなハリネズミくんの秘密を教えてあげよっか。」

 口の端を上げて嫌な笑いをする狐に嫌悪感しか感じない。

「いいえ。大丈夫です。
 もし秘密があるのなら本人から聞きたいです。」

 健吾さんならきっと話してくれる。
 なんだかんだ言っても優しい人だから。

 こんな状況でも健吾を思い浮かべると温かい気持ちになった。

 狐がそれを壊す声を出す。

「残念でしたー。
 君に拒否権はないの。
 どうやったら人外が生まれるかって話。」

 人外が生まれる………。

 そんなことを疑問に思ったことはなかった。
 でもそれをわざわざいやらしい顔で嬉しそうに話そうとするのは………。

「おい!狐か!
 こんなことしてタダで済むと思うなよ。」

 聞きたいと望んでいた声が聞こえて胸が高鳴った。

「健吾さん!」

「朱莉!何もされてないか!?」

 あぁ。やっぱり健吾さんは私の…………。






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