棘を包む優しい君に
 狐の組織は撲滅したはず……。
 あぁ。そんな奴らはごまんといるよな。
 しまったな。気を抜いてたな。

 夢の中でそんなことを思って、しばらくするとたまに見る幸せな夢に変わった。
 きっと側に朱莉がいるような夢を見るお陰でハリネズミから人に戻れるようになったんだと思う。

 綿毛のようなふわふわとした優しさが唇に舞い降りる。
 望んだ姿になった俺は優しいぬくもりに手を伸ばす。

 微笑んでいる柔らかな愛おしさを腕の中に抱き寄せてた。
 目が覚めて悲しい寂しさに溺れないように、腕の中から幸せがすり抜けないように。

 いつも目が覚めると少しだけ寂しさが訪れて、それでも幸せな気持ちになった。
 側にいなくても朱莉を感じられるような気がして。

 今回も目を開ける。
 腕の中に誰もいなくても………いなくても?

 …………おかしい。
 腕の中に何かいる!

 あのふわっとしたいい匂いがして、これも夢なのかと自分を疑った。
 それなのに何度、目を閉じて開けてみても腕の中には朱莉がいた。

「どうして………。」

「憧れのドレスありがとうございます。
 さて。どうしてでしょう?
 毎日、気づかれないようにキスをするの大変でしたよ?」

「は?」

 くそっ。なんだよそれ。

 朱莉はプレゼントしたウェディングドレスを着ていた。
 俺は………タキシード!?

「ふふっ。このハリネズミ可愛い。」

 朱莉はベールの端にあしらった小さなハリネズミを指して微笑む。
 忘れてるって分かってるけど、少しだけハリネズミをって………。

 忘れて……?

「おい!どういうことだ!」

「シッ。もうドアが開きますよ?」

 目の前のドアが開いて、まばゆい光に目が眩んだ。
 まばゆい先にはたくさんの祝福の嵐があった。



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