棘を包む優しい君に
 こういう時に限って寮に誰もいない。
 口でどんなに説明しても理解しなさそうなコイツにどう対処しようか……。

「寮と言っても綺麗なんですね。」

 健吾の後をついてくる朱莉を仕方なく部屋に招き入れた。
 面倒な奴ではあるが害はないのだから茶くらいもてなして帰そうと決めた。

「おい。こっちだ。」

 自分の部屋のドアを開けると近づいてきた朱莉も部屋に入った。

 寮は長い廊下にそれぞれの部屋がある感じだ。
 簡単に言えば1部屋ずつの部屋がたくさんある旅館のようなもので、風呂も大浴場だし、ご飯は食堂で食べられた。

 大きな玄関で靴を脱いで寮内はスリッパというのも旅館に似ていた。

「わぁ……。」

 部屋に入るなり声を漏らした朱莉の視線を辿って納得した。
 視線の先には作りかけのドレスが掛けてあった。

「これ、どうしたんですか?
 途中みたいですけど、まさか副社長が作ってるとか?」

「まぁな。俺の肩書きは副社長だけど、本職はこっちだな。
 オーダーメイドのウェディングドレス……。」

「もしかしてハリヤブランドですか!?」

 今まで呑気な奴だと思っていたのに健吾の言葉に被せるように言葉を発した。
 見るからに目を輝かせている朱莉に呆気にとられた。

 女ってこういうの好きだよな。
 こいつも女ってことか……。

「1人でやってるから1着作るのも大変でね。
 あとこの容姿だろ?
 結婚相手の男の方が嫉妬したり、俺と付き合いたいからと結婚を取りやめようとする奴がでたり……。
 面倒も多くてな。」

 不満が後から後から溢れそうで気分を変えようとキッチンの方へ向かった。
 どうしてもとミニキッチンをつけてもらった部屋は少し狭くはなるが、2人くらいなら大丈夫だった。

「コーヒーでも飲むか?」

「あ、はい。お言葉に甘えて。」

 ベッドの前に小さいテーブルを出して、コーヒーカップを置いた。

 1人増えた部屋は思いのほか狭く感じなかった。
 朱莉が細いせいだろう。

 160センチあるかないかの朱莉。
 ブラウスの七分袖からのぞく手首が細い。
 187センチの健吾からしたら小柄に見えてしまうが、平均身長のようだ。

「まさか副社長が憧れのドレスを作っていた方なんて………。」

「いい加減その呼び方やめろよ。
 だいたいお前、俺のこと知らなかったろ。」

「はい。その節はすみませんでした。
 まさか自分が働いている会社の副社長だったなんて……。
 モデルの方か何かかと……。」

 自分の会社の上の奴は知らないのに俺のドレスのことは知ってるんだな。

 一部の人には知られていても所詮1人では作れる量が限られていた。
 その為、多くの人に知られるとまではなっていなかつた。





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