棘を包む優しい君に
「可愛い。
 副社長、ハリネズミ飼ってるんですね!」

 こいつならそう思うか……。

 返事をするのも嫌で黙り続けることにした。
 人外……せめて狼男が良かった。

 俺は……………………ハリネズミ男。

「なんだか君って副社長の綺麗な髪の色と似てるね。」

 優しく撫でる手つきと思わぬ言葉にくすぐったくなった。

 綺麗な髪の色なんて言われ慣れたことなのに、朱莉が言わなそうな台詞で恥ずかしくなる。
 それを図らずも本人に告げているとは思いもよらないだろうと思うと余計にこちらが気恥ずかしい。

「もしかして副社長って呼ばれるのがそんなに嫌だったのかな?」

 そんなわけない。
 副社長って呼ぶのはやめろとは言ったけど………。

「健吾……さん?
 どこに行ったんですかー?」

 疑問形で呼ぶ声に鼓動が早まる。

「もしかして気づかないうちに部屋の外に行ったのかな?」

 どういう思考回路をしているのか……。

 朱莉は飽きれる健吾(ハリネズミ)を床にゆっくりと降ろすと部屋の外に出て行った。

 健吾は隙を見て物陰に身を隠した。

 しばらくして戻ってきた朱莉は「おかしいなぁ。どこに行ったんだろう」とつぶやきながらさっきの場所に座った。

 その後は我慢比べだった。

 朱莉からしたら何も告げられず放っておかれている。
 何故、ここまで待てるのだろうと不思議に思うほどだった。

 何分、何時間経っただろうか。
 やっとポツリと呟いた言葉は健吾を非難する台詞ではなかった。

「副社長だから忙しいんだなぁ。」

 朱莉の中でそう解釈したらしく「ハリネズミちゃん帰るね。バイバイ」とどこにいるのか見つけられないまま手を振って帰って行った。

 仕方なくズボンのポケットから携帯を探し出しメールした。

『あの女が寮から出て行ったから家まで送ってやってくれ。』

 深夜だろうと知ったことじゃない。
 そう思うのに何もせずにいるのは違うと思った。






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