棘を包む優しい君に
「あーぁ。今日はこのまま酒が抜けるまでこの姿か。」

 健吾はアルコールが苦手でお酒を飲むのはもちろん、ラムやブランデーが入ったチョコすらダメだった。

 子どもの頃はここまでではなかった。
 今では注射の前のアルコール消毒さえ怖くてやりたくない。
 消毒で捕まれた腕がハリネズミに変わっていたら大騒ぎだ。

「番い………ね。」

 成人すると今まで人として形を保っていた者も動物の方が強く出るようになる。
 その為、大人になると同時に早めに番いを見つめるのだ。

 今までは番いなんていらないと思っていた。
 人間の部分が侵食されて獣になるのだったら、別にそれで良かった。

 人間なんて面倒くさいだけだ。
 思い悩んで痛める心なんて無いに越したことない。
 本能だけで生きる獣の方がいい。

 そう思っていたのに………。

 胸に手をやる。……やろうとする。
 ハリネズミの手では胸に届かない。

 それなのに早い鼓動に「半端者のくせに……」とつぶやいた。





 しばらくしてメールが届いた。
 朱莉からだった。

『成宮朱莉です。
 家まで送るように頼んでくださってありがとうございました。
 送ってくださった方からお礼のメールを送りなさいと健吾さんの連絡先を教えてもらいました。
 お仕事お疲れ様です。
 お仕事忙しそうですね。副社長ですもんね。』

 疑いもしないんだな。
 純粋そうな朱莉の瞳が頭をかすめる。

 メールには続きがあった。

『もし良かったらでいいんですけど……。
 健吾さんが忙しい時にハリネズミちゃんのお世話をしに行かせてください。』

 どう返事をしたらいいのか。

 そもそもどうして隠れたのか。
 見せつけてやれば良かった。
 今の姿で「俺が健吾だ」と言ってやればいい。

 何が『狼男でも吸血鬼でも無い』だ。
 ハリネズミだろうと何だろうと俺は化け物以外の何者でもない。

 我慢比べの深夜遅く。
 まぶたが重くなる健吾は『人間のまま恋をしたかった』と叶わぬ夢を浮かべて本当の夢の世界へと落ちていった。







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