【完】Kiss me 社長の秘密と彼女のキス
麻耶は今日こそ話をすると決めていた。
ぼんやりとテレビを見て、ソファにうずくまった。
深夜1時をすぎて、ようやく芳也が帰宅し、麻耶はゆっくりと芳也を見据えるとはっきりと声を出した。
「芳也さん、おかえりなさい。ちょっといいですか?」
「ああ」
諦めたような表情にも見える芳也は、ジャケットを脱いでネクタイを緩めながら麻耶を見ることはなかった。

「なんで避けるんですか?ずるいですよ。私があんな風にせまったから?」
麻耶は、平静を装って芳也を見据えた。

特に何も言わない芳也に、麻耶は自分から先に終わらせるように言葉を掛けた。
「こないだの事は事故だと思って忘れて下さい。本当にすみませんでした。だから今まで通りに……。私も子供じゃないので大丈夫です。そういう気分の時もあるじゃないですか。ね?」
あくまで冷静に、ずっと昨日ベッドの中で朝まで考えた台詞を言った。

(なんとか普通に言えたかな……)

「……無理だ」

「え?」
芳也の言葉に、麻耶は動きを止めた。
胸がギュッと締め付けられて、目頭が熱くなる。

(泣くな……このままでも一緒にいたい……泣いたらダメ……)

「いいじゃないですか?私家政婦頑張りますよ?なぜダメなんですか?」
麻耶は努めて明るく芳也に言葉を掛けた。

芳也から向けられた、冷たい表情に麻耶は息を飲んだ。

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