【完】Kiss me 社長の秘密と彼女のキス
「おい」
上から降る低い声に、「しまった!」と思った時には遅かった。

「すみません……ぼんやりしてて」
じっと芳也を見上げながら言った麻耶にため息をついて、芳也は麻耶を見た。
「どこにいくんですか?水崎さん」
そんなふたりの緊迫した雰囲気を壊すように言われた言葉に、麻耶は安堵して始を見た。;
「今週のフェアのドレスの試着をしに……」
「ああ、今週の花嫁役は水崎さんなんですね」
「はい……」
俯きながら答えた麻耶に、
「ああ、模擬挙式か……それは……」
芳也も麻耶の俯いた理由を理解したようで、言葉を濁した。
「社長?」
その言葉の意味が解らない始は芳也を見た。
「まあ、嫁入り前にウェディングドレスを着ると、婚期が遅くなるって言うしな……」
ニヤリと笑って言った芳也に、
「社長!!」
ブラックな芳也を見て、「社員に何を言っているんだ!」と言わんばかりに始は声を荒げた。
しかし、そんな芳也に何か言い返すこともなく、「そうですよね……」とだけ言った麻耶を始は驚いてみた。
芳也としては、麻耶がまた怒る所を見たかっただけだったが、麻耶がギュッと唇を噛んだのを見て慌てていた。

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