主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-③ 
雪男の両袖を朔と輝夜が握って歩く。

この光景は珍しいものではなく、ふたりが集中力を欠いてぐずったり落ち着きがなくなると、雪男はこうやってふたりを町に連れ出して散歩させたり何かを買って食べたりして気を紛らわせてやっていた。


「おお、今日もお元気そうだ」


「まるで本当の親子のようですね」


町の人々がそう声をかけては三人を微笑ましく見守る。

主さまはほとんど町を出歩くことはないが、雪男や息吹や朔たちはこうしてよく出歩くことがある。


「へへ、本当の親子みたいだってさ」


「俺たちの父様はお前じゃないぞ」


「そうですよ、私たちの父様はもっと威厳があって話しかけにくいんですから」


「なあ、それって褒めてんの?けなしてんの?」


――朔たちにとって雪男は父の主さまよりも気安く、相談もしやすければなんでも言うことを聞いてくれる。

今日だってこうしてついて来てくれたことが嬉しかった朔たちは町を練り歩き、目下幽玄橋を目指して晴天の下を行く。


「…あ…」


突然輝夜が手を放して立ち止まった。

すると朔がすかさずその手を握り、離すまいと力を込めた。


「輝夜、どうした?」


「兄さん…近くに居ます…」


「は?誰がだよ」


朔と雪男が聞いても輝夜は虚ろな目をしてどこか遠くのものを見ている。


「輝夜」


もう一度朔が呼びかけると、輝夜は朔の手をぎゅうっと握り返して歩を進めた。


「幽玄橋の向こうに…居ます」


それ以上は答えない。

雪男と朔は顔を見合わせて頷くと、輝夜の言う通り幽玄橋の前まで来て赤鬼と青鬼の前に立った。


「おお坊たち。こんな所まで来てどうしたんだ?」


「なあ、今日この橋に誰か近付いたか?」


「ん?いや、誰も…ああ、そういえば女がこちらをずっと見ていたな。もう去ったが」


…女?

雪男が首を傾げたが、輝夜は相変わらず難しい顔をして、朔を不安にさせた。
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