主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-③ 
雪男がぴりぴりしているのが傍から見ていて分かった。


…父と雪男は仲が悪い。

いや、心の底から仲が悪いということではなく、雪男が母に恋をしているから父はそれを邪険に思って必要以上につんつんしているのだ。


自分たちが何か問題を起こしてしまうと雪男が責任を取らされて怒られることは分かっていたため、朔は通りをゆく人々を目を合わせないように伏し目がちになりながら輝夜の様子を窺っていた。


「この辺りから…」


輝夜の力は完全には顕現していない。
何かがあるとは分かっていてもそれが何かは明確には分からず、きょろきょろ辺りを見回して気を探っている。


「誰かが住んでるのか?」


「兄さん…母様を知っている方が居て、その方が…」


うるっと目を潤ませた輝夜が泣き出しそうになり、雪男は輝夜を抱き寄せて顔を胸に押し付けると、頭を優しく撫でた。


「輝夜、無理をするんじゃないぞ。この辺に何かあるのは分かった。今日はこれまでにしよう」


「でも急がないと…」


…何故急がないといけないのだろうか?

それを問うてもきっと輝夜は答えない。

すると朔が目を赤くした輝夜の手を握って大通りに戻ろう、と言った。


「ここまで来たんだからお祖父様の所に行こう。本も借りたいし」


「ああそうだな、そうするか。あいつんとこで菓子でも食おうぜ」


大通りに向けて歩を進める。


雪男の手を握ることは息吹から固く禁じられている兄弟はまた袖を握り、それがとても幼い行動なのだと分かっていても甘えてしまう。


「お祖父さまはいらっしゃるのかな」


「さあな、居なかったら勝手に上がり込んで好き勝手しようぜ」


ははっと笑って意気揚々とふたりを引っ張る雪男に救われた思いになった輝夜が笑顔に戻り、ほっとした朔が小走りについて行く。


輝夜の杞憂は何なのだろうか?

ふたりに分からないよう努めながら考えを巡らせる。

これは主さまに伝えなければならない案件なのかどうか、見極めが必要だった。
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