主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-③ 
「おい坊、集中しろ。なに余所見してんだよ」


庭で手合わせが行われていた。

まだ幼いながら朔の腕前は極上ーー油断をすると物凄い速さで打ち込んでくるため隙は見せられない。


「輝夜が気になるか?」


「母様が傍に居るから多分大丈夫」


鬼と人の間に生まれた半妖だが、鬼は力が強く成長が速い。

男は特に腕力には目を見張るものがある筋肉馬鹿が多いが、朔はいつまで経ってもすらりとしていて細い。

…が、その細腕からは想像もできないほど力が強く、電光の如く打ち込んできた小さな身体を正面から受け止めた雪男はにかっと笑って足払いをすると、朔がころんと転がった。


「卑怯だぞ、刀で勝負しろ」


「正攻法だけで勝てると思うなよ。お前は何が何でも先頭に立って仲間と共に…また仲間を守りながら百鬼夜行をやるんだ」


戦い方から信頼関係の構築などを雪男から教わる朔が手を引っ張られて立ち上がると、右手に隠し持っていた砂を顔めがけて投げつけて視界を奪い、竹刀を雪男の首にぴたりとあててにやり。


「こういうことだろ?」


「そ、そうそう、よくできました…」


雪男がやるべきことは朔の鍛錬以外にも山ほどある。

百鬼夜行から戻ってきたばかりの主さまが寝ている間に毎日届く文を選り分けて優先順位をつけて用意し、同じく側近の山姫と分担して無駄に広い庭の整備と屋敷内を掃除し、そして自らも少し眠らなければならない。


ーーどうしたことか妙に朔に懐かれている雪男は、ちょこちょこと後をついてくる朔の額を指で弾いて客間にごろんと横になった。


「俺は少し寝るから遊びたいなら銀がその辺に居るから相手してもらえよ」


「ここに居る。本読んでる」


晴明の影響か、朔は本が大好きだ。
雪男のすぐ傍で読書を始めた朔は大人しく邪魔にならないので雪男はそのまま目を閉じて寝入る。

朔は雪男の身体にもたれかかってぴったりくっつきながら、息吹たちが帰ってくるのを待った。

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