政略結婚はせつない恋の予感⁉︎

銀座のブシュロンに着いた。

マイバッハから降りて、石造りのモダンな外観のショップ(フランスではメゾンって言うんだっけ?)に二人で入って行く。
スウェーデンのクォーターの将吾さんと国籍不明な風貌のわたしは、ガタイがデカいのもあって、周囲から注目の的だ。

すぐに、この前の店員さんがこの前と同じプライベートサロンの中の一つに案内してくれる。
ダークブラウンの立派な調度品、そしてカーテンとソファセットが深紅に統一されたお部屋だ。

「……先日はどうしても仕事で来られなくて、こいつに寂しい思いをさせてしまってね」

深紅のソファにゆったり腰かけた将吾さんが、クリスマスということで出されたスパークリングワインを口にしながら、しれっと言う。

……はぁ!? どの口が言う!?
『こいつ』ってどいつよっ。

「でも、エンゲージもマリッジも富多さまがお選びになったものになりましたし、朝比奈さまのことをお大事にされているのがよくわかりました」

対面に座った店員さんが感激したように言う。

……はぁ!? 将吾さんはそのとき、アメリカ人と会議の真っ最中だったんですけど?

やってられないわたしはスパークリングワインをごくっ、と呑んだ。

……美味(おい)しい。シャンパーニュだろうか?
シャルドネなどの白葡萄(ぶどう)だけでつくられたブラン・ド・ブランだったらうれしいな。

「こちらがお待ちいただきました婚約指輪(エンゲージリング)でございます」

わたしの前にピヴォワンヌが差し出された。

やっぱり、頬が緩む。「金色夜叉」でお宮が成金からもらったダイヤモンドに目が眩んで、愛する貫一を裏切った気持ちがわからなくもない。

「彩乃、左手出せ。つけてやる」

成金……じゃなかった、将吾さんがわたしの指にエンゲージリングをはめてくれた。

「あらかじめ伺っておりましたので、国内外から良い石のものを集めまして、その中でも最高級の品質でございます」

「それは世話をかけたね……こいつも気に入ってるようでよかったよ」

将吾さんと店員さんがワケのわからない話をしてるけど、どうせ適当に話を合わせているんだろう。

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