政略結婚はせつない恋の予感⁉︎
わたしたちは副社長である将吾さんの社用車、メルセデス・マイバッハS600に乗り込み、後部座席に並んで座った。
まるでビジネスクラスの機内のような車内で隣に座る将吾さんをふと見ると、くちびるが紅い。
わたしはルビー色のボリードからティッシュを一枚取り出して渡した。
「はい、ついてるわよ」
将吾さんはきょとんとした顔をしている。
わたしは自分のくちびるを指した。
「……おっ、Thanks.」
将吾さんは自分のくちびるをティッシュで擦った。
「……とれたか?」
「とれてない……落ちない口紅だからかなぁ」
わたしはまたボリードの中を探った。
「おまえ、そんな口紅塗るなよ。どうすんだよ」
将吾さんはふてくされた顔をしている。
「そっちが突然してきたんだから、自業自得でしょ?」
わたしは見つけたウェットティッシュを差し出し、一枚引き抜かせた。
また彼がくちびるを擦る。
今度はうまくとれたようだ。
なんだか、運転手さんの肩がぷるぷるぶる…と小刻みに震えていたように見えたけど、気のせいだろう。