いつか、らせん階段で
仕事が終わって職場のロッカーから旅行荷物が入った大きなバッグを取り出した。

このまま部屋には帰らない。
そろそろ尚也も帰って来ているだろうか。

職場を出て品川駅に向かった。
京都に行くためだ。

1人でどこに行こうか考えて、女性のひとり旅が多くて目立ちにくい所は京都しか思い浮かばなかったからなんだけど。

新幹線に乗り落ち着いてからスマホを見ると、尚也からメッセージが入っていた。
もう私のアパートに戻ってきていて、私の帰宅時間を尋ねるものだった。

私はクローゼットの引き出しの中に尚也宛の手紙を書いて置いてあること
しばらくアパートには戻らないこと
をメッセージで送り、尚也の携帯電話番号を着信拒否設定にした。

手紙には尚也と過ごした日々が楽しかったこと
別れる事がわかっている数日を一緒に過ごすことが辛すぎてできないこと
を書いておいた。

見合い相手のことなどには一切触れてはいない。
今さら言っても仕方ない。
私もこれをきれいな思い出として残したいから。

案の定尚也からメッセージが立て続けに届いた。

電話が着信拒否になっていることにも気が付いたらしい。

今どこにいるのか。
会いたい。
話がしたい。
戻って来て欲しい。

新幹線を降りるまではメッセージを開き返信はしないで全て既読状態にした。
私もまだ尚也とつながっていたい気持ちがあったから。

京都駅に到着する直前に最後のメッセージを送った。

今までありがとう。
仕事を頑張れたのは尚也のおかげ。
これからの尚也の幸せを祈ってる。
部屋の鍵は郵便受けにでも入れておいて。

そして尚也の返信を待たずにメッセージアプリを削除した。

新幹線は小雨の中、京都駅に到着した。



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