いつか、らせん階段で
「来週から夜の営業が始まるんです。夏葉さんも来て下さいね」

屈託のない森本君の誘いに即答できなかった。

「え、あ、うん。そうだね」

夜に「リーフ」に来たら、仕事帰りに寄った尚也に会ってしまうかもしれない。
ここは平日の昼間に来るのが安全だろう。

「本当に来て下さいね。夏葉さんの好きな鴨肉を夏葉さん好みの味にして待ってますから」

「わ。森本君、最強の誘い文句だね」

思わず笑った。私は鴨肉が好物の1つ。
以前、街なかで偶然出会った森本君に頼まれて一緒に食べ歩きした時に話をしたのを覚えていたんだ。

「都合付けるね」
私は曖昧に微笑む。

「オイ、仕事中にナンパすんな」
ポコンと音がして、お盆で森本君の頭を軽くはたいたのは可南子さんの旦那様の大貴さんだ。
私は笑った。
「ナンパじゃなくて営業ですよ。お久しぶりです、大貴さん」

「やぁ、夏葉ちゃん。またキレイになったんじゃないか?」
爽やかにお世辞を繰り出す大貴さんに
「いえいえ、大貴さんのイケメンちょいワルオヤジ度の上昇っぷりには負けますから」
と言い返した。

「俺、ちょいワルオヤジなの?イクメンなんだけど」
「見た目ですよ、見た目」

大貴さんは40才。男女問わず客あしらいが上手い。料理人としても最高。そして、見た目もワイルド系イケメン。
美人の可南子さんと並ぶとモデルかいっ!ってツッコみたくなる程の美男美女夫妻。

「森本、厨房頼む」と森本君を厨房に戻した大貴さんは私の目の前にアイスティーを置いた。
「夏葉ちゃんにサービス」

「ありがとうございます」

大貴さんの表情に違和感がある。

「私に何か話があるんですね」
< 30 / 44 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop